はじめに
車とかバイクのカタログやWEBサイトを見ていると、「最高出力」「最高トルク」という項目が目に付くと思います。
車好き・バイク好きなら絶対に気になる数値だと思います。
純粋にガソリンのエンジンのみで動くスポーツカーなんかは、絶滅しそうな感じですが、高性能なエンジンの基準としては、「自然吸気エンジンでは、排気量1リッターで、最高出力100PS(馬力)、最高トルク100N」と言った感じでしょうか。
初期型のS2000やちょっと前のケーターハムのR500Rなどは、1リッターで125馬力とか139馬力とかのエンジンもあったと記憶しています。
バイクのエンジンは今のところ大方、1リッター100馬力を超える物が多いと思います。
出力とか馬力って何?
仕事とは何かから始めよう!!
まずは仕事と言う言葉について見ていきます。
仕事とは、物体に力を加えて、加えた力の向きに物体が動いたら力は仕事をしたと言います。
例えば、物体に一定の大きさの力 \(F\) を加えて、加えた力と同じ向きに距離 \(s\) だけ移動した時に、力は仕事 \(A\) をした事になります。
式に直すとこんな感じです。
\(A = Fs\) ・・・①
仕事の単位は、1N(ニュートン)の力で物体を1m(メートル)動かしたときの仕事を1J(ジュール)とします。
本題!!出力とか馬力って何??
出力とは、単位時間にする仕事の事です。動力と呼ぶことも多いです。仕事率と言ういい方もします。物理の教科書では仕事率と習うと思います。
動力(出力)の単位には、W(ワット)を使います。そして、1秒間に1J(ジュール)の仕事をする動力を1W(ワット)と言います。
したがって、時間 \(t\) [s] の間に仕事 \(A\) [J] をする動力 \(P\) [W] は次の式で表す事ができます。
\(P = \frac{A}{t}\) ・・・②
となります。ここで、先程の①式を②式に代入したいと思います。
\(P = \frac{A}{t}\ = \frac{Fs}{t}\ = Fv\) ・・・③
と変形する事ができます。\(\frac{Fs}{t} = Fv\)となっていますが、\(s\) が距離で \(t\) が時間ですので、距離を時間で割ったので、速度\(v\) になったと言う事です。
また、馬力とはどんなものかと言うと、「地球上で75kgの物体を、1秒間に鉛直上向きに、動かす場合の仕事率のこと。」です。
スポーツで例えると、ロッククライミングで、体重が75kgの選手が、垂直の壁を1秒間に1m登ったら、その選手は1馬力のパワーがあると言えます。
日常生活で言えば、「体重75Kgの人が1秒間に階段を1m登れば、その人は1馬力のパワーがある」と言えます。この場合水平方向の移動も行っているため、多少異なりますが、1馬力はあると言えます。
注意!! 階段で実際に自分の馬力を確かめてみる場合には、十分気を付けてください。 その昔、私が小学校低学年の時の事ですが、習い事先の階段をふざけて降りていたところ、誤って落ちてしまい、頭の骨にひびが入って、数日間集中治療室に入っていたことがあります。 迎えに来ていた母の目の前で、落っこちたのですぐに病院に行くことができたので、何とか治療に間に合いました。 |
トルクって何?
トルクとは、回転体を回そうとする力の効果の事です。力そのものではなく、「力の効果」であるので、イメージが難しいかもしれません。
簡単にイメージできるように説明すると、すっごく軽い素材でできている、半径1mの水車の時計の位置で3時の場所に1ℓの水が入ったペットボトルを吊り下げる様な実験を思い描いてください。
この時の、ペットボトルの重さにより力が加わり、水車が回ると言う、力の効果がトルクです。
今度は式で表したいと思います。
加わる力を \(F\) [N] 、回転軸の中心からの距離を \(r\) [m]、とするとトルク \(T\) [N・m]は、次の式で表す事ができます。
\(T = Fr\) ・・・④
免許をとるなら一生の思い出にもなる
合宿免許がおすすめ!!
馬力(出力・動力)とトルクの関係
馬力(出力・動力)とトルクの間には、深い関係があります。
時計の3時の位置に、下向きに力 \(F\) を加えて、点 O を軸として回転する水車の仕事と馬力(出力・動力)をイメージしてみてください。
水車の側面の1時の位置を点 \(Q\) とします。時間 \(t\) [s] の間に角 \(\theta\) [rad] 回って、時計の3時の位置の点 \(Q’\) に来た時の仕事を \(A\) とします。この時、次の式で表す事ができます。
\(A = F \times \stackrel{\style{transform: scale(3.7,1.0)}{\frown}}{QQ’} = Fr\theta\)
ここで、\(\stackrel{\style{transform: scale(3.7,1.0)}{\frown}}{QQ’}\)が \(r\theta\) になっていますが、数学で習いますが、円の弧の長さは、半径に角度\(\theta\)[rad]を掛けて求める事ができます。角度は90度とか60度ではなく、ラジアンです。
次に、上で見てきた、式④を思い出してください。\(Fr\) はトルク \(T\) でしたよね。すると、今度は、仕事を次の式で表す事ができます。
\(A = Fr\theta = T\theta\)
すると、動力(馬力・出力) \(P\) は、次の式で表す事ができます。
\(P = \frac{A}{t}\ = \frac{T\theta}{t}\)
ここで、\(\frac{\theta}{t}\) は、角速度 \(\omega\) で表せるので
\(P = T\omega\)
となります。
つまり、動力(馬力・出力)は、「トルク」と「角速度」の積(積とは掛け算の事です。)で表す事ができます。
最後に、もう一度水車を想像してみてください。水車が \(n\)[min⁻¹] で回転しているとすると、角速度 \(\omega\) [rad/s] は、
\(\omega = \frac{2\pi n}{60}\)
と表す事ができます。すると、
\(P = T\omega = T\times \frac{2\pi n}{60} = \frac{2\pi n T}{60}\) ・・・⑤
車のカタログなどで見る[kW] で表すと、
\(P = \frac{T\omega}{1,000} = \frac{2\pi n T}{1,000\times 60}\)
となります。
ギヤは何のためにある?
⑤式によると、エンジンの動力(馬力・出力)を一定にしたとき、変速する事により回転数 \(n\) を小さくすると、トルク \(T\) を大きくする事ができると読み解く事ができます。
つまり、回転速度 \(n\) とトルク \(T\) は、反比例の関係です。
したがって、エンジンからの回転数を変速(主に減速)して、トルクを変換(増大)させる機械がギヤ(トランスミッション)の役目です。
少しイメージしてみてください。1,500ccの車のエンジンだとトルクが15kgm(半径1mの水車の3時の位置に1ℓのペットボトル15本を吊り下げた位)ですが、このトルクで1tを超える自動車が坂道発進する事は無理だとすぐに分かります。
ではどうするかと言うと、トランスミッションを使って、トルクを大きくして車を動かすのです。
ミニ四駆とかラジコンなんかを動かして遊んでいると、ギヤを変えたりしてみると、坂道を登れる様になったりするので、トルクは大きくする事ができることを目で見て確認する事ができます。
「加速」に必要なのは「馬力」それとも「トルク」
クルマやバイクを前に進める力の事を駆動力と言ったりします。
その駆動力 \(F\) [N] は、エンジンの軸トルク \(T\) [N・m] 、タイヤの半径 \(r\) [m] 、全減速比 \(i\) 、動力伝達効率 \(\eta\) を使って次のように表す事ができます。
\(Fr = T i \eta\) ・・・⑥
全減速比は「変速比」と「減速比」の積です。クルマやバイクのカタログなどで確認できます。
動力伝達効率\(\eta\)は、エンジンの軸出力がどれだけ損なわれる事なくタイヤ(駆動輪)に伝わったかを表す比です。
エンジンの軸出力を \(P₁\) 、タイヤ(駆動輪)に伝わった動力を \(P₂\) とすると、動力伝達効率 \(\eta\) は次のように表す事ができます。
\(\eta = \frac{P₂}{P₁}\)
一般的には、動力伝達効率 \(\eta\)の数値は、0.80~0.95程度であるとされています。カタログなどには載ってない事がほとんどです。
この \(Fr\) と言うのは、路面に伝わるクルマやバイクを前に動かす力 \(F\) [N] とタイヤ(駆動輪)の半径 \(r\) [m] の積なので駆動輪の軸トルクを意味しています。
式⑥を変形すると次のようになります。
\(F = \frac{T i \eta}{r}\) ・・・⑦
この式⑦より、タイヤの半径 \(r\) を小さくすれば \(F\) を大きくする事ができると分かります。
したがって、過度に半径の大きいタイヤは見栄えを考えると良いかもしれませんが、運動性能の面からは避けるべきだと言えます。
ここで、加速抵抗 \(R₁\) [N] という、加速する時に発生する諸々の抵抗力を、相当質量係数 \(\delta\) を使って表すと次の式で表す事ができます。\(\delta\) の値は一般的には、0.05~0.07程度です。加速度を \(a\) [m/s² ] とします。
\(R₁ = (1 + \delta)m a = (1 + \delta)\frac{W}{g}a\) ・・・⑧
⑧式で \(m = \frac{W}{g}\) となっているのは、\(m\) [kg] はクルマやバイクの質量、\(W\) [N] はクルマやバイクに働く重力を表し、\(g\) [m/s²] は重力加速度を表しています。
最後に、肝心な加速能力についてですが、加速能力とは簡単に言うと「駆動力 \(F\) [N] と走行抵抗 \(R₂\) [N] の差」で表す事ができます。つまり、次式で表せます。
\(R₁ = F – R₂\) ・・・⑨
ここで、⑧と⑨より
\((1 + \delta)\frac{W}{g}a = F – R₂\)
すると、加速度 \(a\) [m/s²] は
\(a = \frac{g(F – R₂)}{(1 + \delta) W} = \frac{F-R₂}{(1 + \delta)m}\)
つまり、素早い加速には、駆動力 \(F\) [N] が、大きく寄与している事が分かります。
そして、その駆動力\(F\) [N]は、⑦式の通り\(F = \frac{T i \eta}{r}\) であるので、トルク \(T\) [N・m] に比例しているため、トルクが大きければ駆動力も大きくなり、加速能力も大きくなることが分かります。\(m\) は、クルマやバイクの質量であるので、クルマやバイクが重ければ重いほど加速が鈍くなることも分かります。
したがって、「加速」に必要なのは、「馬力」よりも「トルク」である事が分かります。
ただし、⑤式の様に馬力(動力・出力)は、トルクと角速度の積で表される事にも留意する必要があります。
最後までご覧いただきありがとうございました。
運転免許の概要と教習の事ならこちらもチェック!!
高齢者講習の概要と対策についてはこちらをチェック!!